一元的な海に身を委ねて ~生きて死ぬ智慧~

今、売れている本に「生きて死ぬ智慧」(小学館)という絵本があります。
科学者である柳沢圭子さん著作の、般若心経の現代訳です。

生きて死ぬ智慧

生きて死ぬ智慧
柳澤 桂子 堀 文子

小学館 2004-09-18

優秀な科学者でありながら、人生のおよそ半分にあたる36年間を原因不明の病と共に生きている彼女
NHKの番組で紹介され話題になっているので、知っている人も多いかと。

ただ、「空」(クウ)とかって概念が難しいんで、この本読んでもイマイチ理解できないって人も結構いるみたい。

ということで、私なりにちょっと解説でも入れてみようかと。
もちろん、“私なり”の解釈ですぜ。

色と空と

「色即是空」って言葉があります。
「シキソクゼクウ」って読みます。

「色」って、“目に見えるもの”のことです。
決して、色気とかスケベ心なんかの意味じゃ、ありません。

で、「空」とは、”実体がない”ということです。
「空」という漢字のイメージからすると、「無」とか「存在しない」という意味だと思われがちですが、そうではありません。
固有の本質がそこにない、ということです。

と言うことで直訳すると、「目に見えるものには、実体がない」って事になります。

でも、やっぱりそれだけじゃ、意味がわからない・・・ってはずです。
ということで、もうちょっと説明を加えます。

 

万物に、不変のものってありません。常に形を変えていく。

人は赤ちゃんとして生まれ、大人になり老人となっていきます。
種は芽を出し、根を張り、茎を伸ばし葉を茂らせ花を咲かし、そして枯れてしぼんで、実を蓄え種を作ります。

世の中の全ての物事は、止まることなく常にカタチを変えていくわけです。
何一つ、変わらないものはない。

しかも、モノは常にカタチを変えていきますが、単独で形が変わるわけではありません。

植物が種から花を咲かすには、水や土、太陽の光などが必要です。
人はその成長の過程で、食物や水、教育などが必要です。

1つとして、単独で存在するモノはない。
1つとして、単独で変わっていくものもない。

そういうことです。
様々なモノゴトの関係の中で、植物も人も、そして全てのモノは存在します。
世の中の全てのモノゴトは、複雑に絡み合い繋がり合って存在しているわけです。

 

ちょっとイメージしてください。

目に見える全てのモノは、形を変えていく。
そして全てのモノは、つながり関係しあっている。

ということは、つまり全てのものは根本的にみな1つのものだ、と発想することが出来ます。
カタチのない何か1つのモノ・・・
で、これを「空」と言います。

つまり、「色即是空」とは、「目に見えるものは、根本的に形なく1つのものだ」ということです。

で、もうひとつ。
「色即是空」の後に、「空即是色」という言葉が続きます。

つまり、「空」から「色」は生まれ、「色」は「空」に戻る、ってことです。

形のない1つの漠然とした状況から、個体(目に見えるもの)が生じます。
で、その個体は形を変えていき、再び「空」へと滅するわけです。

仏教って、全てのモノゴトは根本的に1つのものなんだ・・・っていう一元的な世界観を持っているんです。

 

「色」、つまり目に見えるこの世は、「苦」です。
人生とは、「苦」そのものです。

で、元々は実体のない「空」であったはずのものから、「苦」が生まれるのには、原因があります。
そして「苦」の原因は、「執着」から生まれる。
そう仏教では説いています。

生に対する執着、幸福に対する執着、異性に対する執着、若さに対する執着などなど・・・
欲に対する執着が苦を生み出します。

 

でもね。
全ては元々、1つなんです。

個別に見えるこの世のモノゴトは、本来1つの「空」だったわけです。
みんな一緒なんです。

だからね。
アレが欲しいとか羨ましいとか、苦しいだとか辛いだとか・・・そんなモノゴトに執着する必要なんて、どこにもないんですよ。

そう仏教では、教えてくれてます。

 

不治の病や原因不明の病気、手術を伴う病気や怪我など・・・
自分の力だけじゃどうにもならないことって、あります。

越えられない壁。

でね。そんな時には、その一元的な海に思いっきり身を委ねてみる。
自分の心も身体も、そしてその周り取り囲む木や空や土や人や動物などなど、全てのモノが根本的に1つなんだって、そう感じてみるわけです。

あとがきより

この「生きて死ぬ智慧」という本の訳者である柳沢圭子さんは、科学者です。
そんな「空」の概念を、彼女は原子の視点から見ています。

この本のあとがきから少しだけ引用します。

私たちは原子からできています。原子は動き回っているために、この物質の世界が成り立っているのです。・・・(中略)・・・私のいるところは少し原子の密度が高いかもしれません。あなたのいるところも高いでしょう。・・・・

この本が売れている理由は、そんな科学者の視点と、病気と共に生きている彼女の優しさと力強さがあるからなのかもしれません。

post by ノリユキ at 19:29 | コメント・トラックバック(0)



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